失敗学実践講義

失敗学実践講義 文庫増補版 (講談社文庫)失敗学実践講義 文庫増補版 (講談社文庫)

講談社 2010-05-14
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失敗はなぜ起こるのか。どうしたら再発を防げるのか。失敗の経験を社会の共有財産にすべく「勝手連事故調」に奔走する畑村先生の発想と行動力に頭が下がる。本書で扱われている事例は以下の通り。

第1講 想定され得ることは必ず起こる(六本木ヒルズの大型回転ドア事故)
第2講 人の注意力には限界がある(日本航空の連続トラブル)
第3講 追いつかなかった企業改革のスピード(JR福知山線脱線事故)
第4講 ゼロからつくり直すことの大切さ(金融システムの失敗)
第5講 見たくないものは見えない(リコール隠し)
第6講 起こる前に起こった後のことを考える(火災に学ぶ)
第7講 それぞれの立場から見える風景(JCO臨界事故)
第8講 トップの孤独(ロケットの打ち上げ失敗)
第9講 「現地・現物・現人」が理解の基本(JR羽越線脱線事故)

文庫版増補ではこれに加えてJALの破綻とトヨタのリコール問題についても触れられている。
失敗をしないためにどうするかを考えるだけでなく、失敗した場合にどう対処するかを考えること、そこから教訓を引き出していくことの重要さを痛感させられる。組織が失敗を忘れて社内文化が外の社会と乖離していく時間がだいたい30年、という指摘が妙にリアルだった。「駆け込み乗車がなぜ危険か」の説明にも超納得。みんな、駆け込み乗車は今すぐやめよう。
「現地・現物・現人」の重要さを説く第9講では著者が『数に強くなる』で説いていた、数字をおおざっぱに推定して把握する作業を見ることができて、これも面白い。
十九歳以下の子供の死因のうち最も多いのは「不慮の事故」であるという。「不審者」の排除に躍起になる前に、「失敗学」「危険学」の知見を皆で共有する方が、多くの命を守ることになるのではないだろうか。
いずれの事例もわかりやすくまとめてあり、記憶に残る事例についての具体的な話なので非常に面白い。更なる分析や違う見方も可能だと思うが、ここを出発点に「三現主義」で考えていきたい。おすすめ。★★★★★。