こころ

こころ (新潮文庫)こころ (新潮文庫)
夏目 漱石

新潮社 2004-03
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「こころ」読んだよ!順番からいえば「彼岸過迄」「行人」を先に読むべきだろうけど、「それから」の裏シナリオじゃん、と気づいてから早く読みたくてしかたなかったので。高校時代に授業で読まされて、以来漱石のファンになったという思い出の作品でもある。なんという素直な高校生。
さて、三十路を迎えて再読すると、やっぱり文句なしに面白い。新聞小説だけあって短い節ごとに次への期待感を持たせるし、毎回のようにぐっとくるフレーズが出てくる。名言の筆頭はもちろん「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」だよね。先生がKにこのセリフをくり返すところは胸に刺さる。*1
注意して読むと「私」の視点は先生の死後しばらく経ってからの時点にあって、上・中で張った伏線を下で解いてくミステリー仕立ての構成もさすがにうまい。葛藤はあれど具体的な事件が必ずしも起こらなかったりする漱石の作品群の中では最も劇的な展開と言えそう。高校生が読んでも面白いだろうと教科書に入れたくなる気持ちもわかります。
人物描写もいい。とりわけ先生の弱さや卑怯さに説得力がある。Kに先を越して告げられてくらくらするところとか、共感しすぎて痛いほど。でもさ、そんな焦らなくったってお嬢さんは最初から先生のことが好きだったんだよ!南ちゃんだって最初からタッちゃんのことが好きだったんだよ!そうでしょあだち先生!
高校生の時には間延びしているように思えた「中」も、この夏に亡くなった義父のことを思い出しながら読むと全く違った味わいがあった。このタイミングで再読したのも不思議なめぐりあわせというか。本には読むべき時があるし、ちゃんとそういう時に手に取るものなんだね。
読み終えるとこの物語を他の登場人物の視点から書き直してみたくなる。上なら先生や奥さんの視点から、中なら先生や父や母の視点から、下ならお嬢さんや奥さんやKの視点から。そんな授業をいつかしてみても楽しいかな。★★★★★。

*1:大事なことなので二回言いました。とか言いたくなってもがまん。