死刑

死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う
森達也

朝日出版社 2008-01-10
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「死刑をめぐるロードムービー」という通り、死刑囚、被害者遺族、検察官、弁護人、刑務官、教誨師、国会議員など様々な立場にいる(いた)人たちを訪ね、インタビューを重ねた三年間の記録。著者は死刑が犯罪抑止に役立たないこと、冤罪・誤判のリスクが重大すぎることから、論理的には死刑は廃止されるべきという立場をとっている。しかし、本書の中で結論を急ごうとはしない。むしろ、答えを先延ばしにして、徹底的に迷い、読者にも迷いを共有することを求める。インタビューの相手も皆、迷っている。廃止派だと思っていた人が必要性を口にしたり、存置派と思っていた人が否定したり。本質は論理にはないのかもしれない、情緒なのかも知れない、と考えた著者の結論とは。
読み始めたら止まらず一気読み。特に印象に残っているのは元刑務官や教誨師の話。人を処刑するということがいかに人を壊すか、ということを実感する。また被害者遺族を数多く取材し死刑制度を支持する藤井誠二との対話も読みごたえがあった。
論理的には廃止に分があると私も思う。とはいえそれほど深く考えたことがあるわけではなかった。実感としてやっぱ死刑はあるべきじゃない(というか、あってほしくない)と思ったのは、死刑執行人サンソンを読んだ時かな。これはフランス革命のころの話だけど、手を下していなくても私たちが殺してるんだ、というのと、相手が死刑囚でもやっぱり殺す側になるのはいやだ、というのをはっきり感じたから。それから足利事件飯塚事件。冤罪で死刑になることを考えたらいてもたってもいられない。でも実際に相当数ありそうなのだ。本書には、獄中で見送ってきた死刑囚の名前を記した免田栄(冤罪元死刑囚)のメモに、5人に1人ほどの割合で「おかしい(=冤罪ではないか)」と書かれていたという話が紹介されていた。最後まで泣きながら冤罪を訴えて処刑されていった人たち。それが私でないことに理由があるだろうか。