日本手話とろう文化―ろう者はストレンジャー

日本手話とろう文化―ろう者はストレンジャー日本手話とろう文化―ろう者はストレンジャー
木村 晴美

生活書院 2007-04
売り上げランキング : 193791
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
日本語と日本手話は全く違う言語で、ろう者は聴者と違った文化を持っている。でも、具体的にどんなところが違うのだろう?そんな疑問に答えてくれるエッセイ。日常生活で出会うちょっとした摩擦や違和感を、ろう者の立場からユーモアと時に怒りを込めて語る。著者が配信したメルマガを書籍化したもの。
どの話題もそれぞれ面白いのだが、「何が不便になるのかは、何を基準にするかによって変わる」という話を紹介してみよう。
大学院生だった著者は先生が「風邪で声が出ないので休講にする」という連絡に驚く。手話を使うろう者なら、喉をやられても話す分には問題ない。聴者にも不便なことがあるのだ。大きなテーブルで遠くの人と話す時、ガラス越しに話す時など、声で話すのが不便な場面というのは、実は結構ある。しかし著者が取材を受ける時に必ず聞かれるのは「耳が聞こえなくて不便だと思ったことは何ですか?」という質問。聴者には「ろう者=耳が不自由=不便=かわいそう」という思い込みがあるのではないか?という話。確かに、そこで「便利だと思ったことは何ですか?」と質問する記者はあんまりいなそうだ。
そもそも「ろう者」「聴者」という言葉も、普通にパソコンで変換できないからねー。「聾唖者」「健聴者」は一発で出るんだけど。「ろう者=聴者とは言葉と文化が違う人」というニュートラルなとらえ方はなかなか一般的になっていない。
手話を勉強したことのある人や語学に興味のある人には、言語学的な話題も面白いと思う。語彙の意味範囲が日本語と違うことによって生じる誤解とか、語用論的な方策の違いとか。文法的な「表情」、NMS(非手指動作)の話も面白い。ちゃんと勉強したいな、このへん。
手話に興味がある人もない人も、読みやすい本なのでぜひ手にとってほしい。言語が言語として認められ、母語による教育と生活が保障される、あたりまえのことをあたりまえにできる社会が実現するといいなあ。