中国行きのスロウ・ボート

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村上 春樹

中央公論社 1997-04
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面白い小説の中には「こんなの私も書いてみたい」と思うタイプのものと「こういうのは絶対私には書けない」と思うタイプのものとあって、どちらの方がいいというのではないのだけれども、村上春樹のこの短編集は間違いなく後者に分類される*1
ここに収録されている作品に共通しているのは意味が完結しない宙づり感みたいなもの。たとえば「貧乏な叔母さん」なんかも、実在物として描かれているのか何かの隠喩なのか、そうだとしても何の隠喩なのか、全然わからない。「意味がありそうだけどわからない」というように書けるのはすごいなぁと思う。
翻って、自分があらゆることに完結した「意味」を求めるタイプの人間であることを自覚する。収束する物語がなければ落ち着かない。きっと多くの人はそうなんじゃないかと思うけど。そして村上春樹の人気の理由もそのへんにあるのかもしれないなんて思ったりする。

*1:ところでこれ彼の初短編集なんすね。知らなかった。道理で初々しい感じがするわけだ。