総員玉砕せよ!

総員玉砕せよ! (講談社文庫)総員玉砕せよ! (講談社文庫)
水木 しげる

講談社 1995-06
売り上げランキング : 2604
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
作者の分身である丸山二等兵から見た軍隊の日常を淡々と描く前半。彼らを英雄化するでもなく悲劇性を強調するわけでもない。そこに見えるのは、兵隊ひとりひとりがごく普通の人間であること、そして人間がとても死にやすいものであること。川でワニに食われたり、魚をのどにつまらせたり、熱病にやられたり、流れ弾に当たったり、さまざまな仕方で兵隊たちは死んでいく。その滑稽にすら思えるあっけなさが、逆に死をリアルに感じさせる。
一度目の玉砕から生き残ってしまった部隊が(「玉砕命令が出て生きているということは死刑である」)、二度目の玉砕にいたるまでの流れを描く後半。軍医の「生きるのは神の意志ですよ 自然の意志なんですよ」という言葉。それが通用しない軍の論理。責任をとって自決させられる将校が、最後にタバコを吸う場面で泣きながら煙を「ハーッ」と吐き出すコマの迫真。「ああ みんなこんな気持で死んで行ったんだなあ」という丸山二等兵の最期の言葉は、あとがきで作者が言うように「戦死者の霊がそうさせ」たものかもしれない。