ウェルカム・ホーム!

ウェルカム・ホーム!ウェルカム・ホーム!
鷺沢 萠

新潮社 2006-08
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一本目の「渡辺毅のウェルカム・ホーム」は、コミカルなやりとりで展開する漫画的な小説だが、そこで提示されているものは暖かくて深い。
男は仕事、女は家庭という性別役割分業は徐々に意味を失いつつあるが、まだそのイメージは強固に残っている。友人の父子家庭で居候をしながら家事と育児に励む元シェフのシュフ・渡辺毅も、その恋人である、家事の苦手な働く女の子・斉藤美佳子も、従来の「典型」からは微妙に外れながら、そのギャップを意識せずにはいられない。でも結局は、向いている人が向いている分野を引き受けながら、助け合って家庭を築いていけばいいんだということを確認する。
「誰もフツーじゃないし、誰もフツーじゃないんだから、逆にみんながフツーなんだよ」
という台詞。ごくフツーのことだけど、この台詞をフツーに言えるかどうかってことが多分すごく大事なこと。六年生の息子・憲弘君の作文には涙が出ます。
もう一本は「児島律子のウェルカム・ホーム」。こちらはおさえた文体で、再婚に失敗したキャリアウーマンと血のつながらない娘との絆を描く。
どちらの作品も、家族や家庭というものは人と人との信頼関係によって成り立つんだということを力強く伝えていて、優しい気持ちになれる。つくづく作者の早すぎる死が惜しまれます。