手話の世界へ

手話の世界へ手話の世界へ
オリバー サックス Oliver Sacks 佐野 正信

晶文社 1996-02
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一人前の人間として認められていなかったろう者が、どのような道をたどって手話という言葉と文化を持った一種の民族という意識を持つにいたったか。口話主義と手話の弾圧、脳科学の成果など、以前学んだ内容ではあったが、個々の事例から改めて詳しく読むと面白い。ヘレンケラーばりに言語を獲得する瞬間を描いたシーンがいくつも登場する。
それから第三章のギャロデット大学(アメリカにあるろう者のための四年制大学)における学生の反乱の話も面白かった。ろうの学生達がろうの学長を要求し、勝利したという話。この中で、大勢の人たちが手話でおしゃべりしている中、それを理解できない筆者が「ここでは聴者こそが唖者だ」と感じる場面がある。これはかなり重要なポイントではないかと思っている。
昨日読んだ『累犯障害者』で紹介されている障害者の事例は、実は知的障害者聴覚障害者が二本柱である。なぜこの二者なのかといえば、それは言葉や思考に関わるものだからではないだろうか。身体障害や視覚障害を持っている人も、基本的に日本で生まれ育てば母語は日本語。だから取り調べや裁判でのやりとりに困難が生じることは少ない。しかし知的障害や聴覚障害の場合は、その程度や生まれ育った状況によって、日本語での意思疎通が全くできないケースがありうる。そういう意味で、最も先鋭的な事例になりうるのかも知れない。