いじめの社会理論

いじめの社会理論―その生態学的秩序の生成と解体いじめの社会理論―その生態学的秩序の生成と解体
内藤 朝雄

柏書房 2001-07
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筆者は実際のいじめ事例を挙げつつ、次のような指摘をする。日本の社会においては中間集団全体主義が非常にきつい。中間集団(たとえば地域コミュニティ、学校など)が個人に対して過度な自治と参加を要求し、厳しく締め付けている。学級制度は好きで集まったわけではない集団に対してベタベタした共同生活を強いることによって、通常では見られないような攻撃性を引き出してしまっているのだという。
また、心理水準と社会水準の接合領域における枠組みを提示し、いじめの加害者は自らの欠如感を、被害者をいじめることによって生じる全能感によっていやそうとすることを指摘。しかしその行動は盲目的なものではなく、利害を計算して動いている。
これらをふまえて、筆者は次の提案をする。

  • 暴力系のいじめに対しては法システムにゆだね、加害者のメンバーシップを停止する
  • コミュニケーション操作系のいじめに対しては学級制度を廃止する

長期的には教育をチケット制にし、現在のように学校が唯一の居場所になるのではなく、さまざまな「きずな」を自由に選択していける社会を目指すべきだと主張する。
みんなに読んで欲しいと思う一冊。これを読むと(特に事例などを見ると)「被害者にも原因が…」なんてとても言えないし、ごく普通の子や元いじめられっ子が加害者になることも納得できる。
解決すべき点はかなりクリアになっていて、今までに私が読んだ中でも共同体化した「学級」が問題であることは「学級」の歴史学でも書かれているし、システムを変えなければいくら「心」という呪文を唱えても意味がないことは日本を滅ぼす教育論議でも書かれている。正解はすでに出ていると思えるのに、それが浸透しないのは何故だろう?
教育基本法の改正案が参議院でも通ってしまった。見えてきた答えとは反対の方向へどんどん動いてしまっているのが歯がゆいというか、絶望的な気持ちになる。